横溝らしからぬ、そこかしこに見られる残念な点
「黄金魔人」（横溝正史）
（「横溝正史少年小説
コレクション⑤百蠟仮面」）柏書房
「黄金魔人」（横溝正史）
（「風船魔人･黄金魔人」）角川文庫
突如東京に現れた黄金人間。
全身が金色の金属でできていて、
拳銃の弾も
跳ね返す強度を持っていた。
怪人は夜道で
十六歳の少女を狙うが、
それは名字名前がともに
｢イ｣｢ロ｣｢ハ｣となっている
子ばかりだった。
御子柴少年のもとに…。
｢横溝正史少年小説コレクション⑤
百蠟仮面｣に収録されている一篇です。
雑誌掲載は1957年なのですが、
他の長編とは異なり、
当時単行本収録されることなく、
1985年に角川文庫(旧角川文庫最後の
横溝本！)から出版されたという
経緯があります。
読んでみるとなるほど
単行本収録が見送られた
理由がわかります。
そこかしこに残念な部分が
見られるからです。
【主要登場人物】
黄金人間
…都下を騒がす怪人。
全身が金属でできている。
伊藤伊津子
…十六歳少女。
最初に黄金人間に襲われる。
ローズ･蠟山
…十六歳少女。二番目に襲われる。
長谷川花子
…十六歳少女。御子柴少年と同級生。
三番目に襲われる。
丹羽虹子
…四番目に狙われた十六歳少女。
丹羽武麿
…虹子の父。
飛行機事故で死んだとされる。
丹羽式真空管発明者。
丹羽安麿
…武麻呂の弟。虹子の養育者。
丹羽文麿
…武麿･安麿の弟。
細田星子
…灯台守の娘。十六歳。
五番目に襲われる。
細田源三
…星子の父。
名なしのおじさん
…細田一家が養っている記憶喪失者。
山崎…新日報社編集局長。
等々力警部…警視庁警部。
三津木俊助…新日報社記者。
御子柴進…新日報社給仕。探偵小僧。
本作品の残念な点①
超金属というあり得ない設定
黄金人間の身体は
展性の極めて高い特殊な合金を
纏っているという設定ですが、
いくら展性が高くても
身体の動きに合わせて
伸縮するような金属はあり得ず、
もしあっても
それが弾丸を跳ね返すということはない
(貫通する)のです。
ジュヴナイルとはいえ、
これはどうかと思ってしまいます。
本作品の残念な点②
あまりに滑稽な狙われる少女設定
黄金人間が狙うのは十六歳で、
名字名前ともに｢イ｣｢ロ｣｢ハ｣から
始まる少女。
荒唐無稽です(意味はあるのですが)。
｢イ｣伊藤伊津子、
｢ロ｣ローズ･蠟山、
｢ハ｣長谷川花子、
｢二｣丹羽虹子、
｢ホ｣細田星子。
イロハ順にしたために、
ローズ･蠟山なるダンサーの芸名を
使用せざるを得なかったのでしょうが、
それならアイウエオ順の方が
容易だったのではと
つい思ってしまいます。
本作品の残念な点③
襲われた少女の
前後のつじつまが合わない
御子柴･三津木が
丹羽文麿の研究室を訪ねると、
そこに伊藤伊津子が
拉致監禁されていたのです。
しかし彼女は黄金人間に
襲われたものの無事帰宅しています。
いつの間に再襲撃したのか？
まったく書かれていません。
御子柴少年が例によって
車のトランクに潜み、
敵アジトに潜入します。
するとそこには
五人の少女が監禁されているのです。
黄金人間が拉致に成功したのは
五番目の星子だけです。
虹子は狙われただけで
襲われてすらいないのに
なぜ拉致されている？
伊津子については
三たび襲撃されたのか？
｢おもしろブック｣なる雑誌に
連載されたものなのですが、
おそらくは低年齢児対象の
雑誌だったのではないでしょうか
(もっとも使用されている
漢字からすると
小学校高学年くらいでは
あるのでしょうが)。
横溝が緻密な準備をする間もなく、
勢いだけで書き上げてしまったような
作品構成なのです。
横溝の生前には単行本文庫本ともに
出版されなかったのは、
もしかしたら横溝が
それを許可しなかったからという
可能性もあります。
いずれにしても
これはこれで愉しみましょう。
横溝にもこのような作品があるのです。
横溝ファンであれば、
こうした作品も愛せるはずです。
（2021.11.28）
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